カテゴリ【感想】


2020年春のコロナ番組覚書

横浜にあのクルーズ船が寄港してから一年。その頃はこういうことになるなんて想像もできませんでした。

以下は昨年の4月に準備したまま放置していた記事なんですが、この区切りにちょっと整理してアップしようと思います。

(現在ブログはbloggerに戻っていますが、この記事は上記の事情なのでサイト内の旧ブログに追加します)

 

 

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「書簡集」という絶滅危惧種/三島由紀夫からドナルド・キーンへ etc.

三島由紀夫→ドナルド・キーン書簡集と、これを買うきっかけになったキーンさんの自伝。
三島由紀夫→ドナルド・キーン書簡集と、これを買うきっかけになったキーンさんの自伝。

きっかけ~ドナルド・キーン自伝~

 

8月に胃を壊しまして、しばらく養生していた間、いつもより本を読むことができました。それで読み止しだった本をいくつか読了したのですが、その中の一冊が『ドナルド・キーン自伝』でした。(あれ、今は増補新版になってるんですね!)

 

キーンさんはなんとなく好きで、でもご著書をきちんと読んでいたわけでもなく、まあテレビでキーンさんの番組があるのに気づくと見る程度のゆる~いファン(?)でした。自伝も手に入れてから読み止しのまま放置が長くて、そうこうするうちにご本人が旅立ってしまわれました。

 

ちょうど父が他界してから間がない時期だったので、感情的に麻痺していたというか、なんとなく現実感が薄かったのですが、ああ、この方も……とボンヤリ寂しく思ったことを覚えております。

 

今回やっと読了してあとがきを読んでみたら、すごく印象的なことが書いてありました。ちょっと引用させていただきますね。


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残念…!/にっぽんの芸能「踊れ、今こそ ~幸四郎と舞踊家 47人の挑戦~」感想

録画してあった『にっぽんの芸能』をやっと見たんですが、久しぶりに「うわあオレだったらこうするぅぅ~~っ!!」(映画とか見ててよくあるあの発作(^^;))があふれまくってしまったので、健康のために吐き出させていただきました。すべて踊りではなくCG合成に関しての「残念」で、書いてて申し訳なくなったのですが……CGクリエイターさんに他意はまったくありません! ほんとにごめんなさい。けっこう辛口になってしまったので、あらかじめご了承くださいマセ。(でも、これらを書き出す過程で学べたこともいろいろあって、勉強させていただきました☆)

 

番組のページはこちら❤

 

にっぽんの芸能「踊れ、今こそ ~幸四郎と舞踊家 47人の挑戦~」

 

番組内容は、一年がかりで準備してきた『夢追う子』という日本舞踊協会の舞台(オリンピック選手を夢見る子供をテーマに多流派の方々で踊る大掛かりなもののようです。事前の紹介記事はこちら)がコロナ禍で延期になってしまい、プロジェクトリーダーの松本幸四郎さんがそれを別の方法で形にできないかと考えたすえ、1人ずつ撮影した踊りをCGで合成してまとめることになり、その過程と出来上がった映像作品そのものを放映する、というものでした。もちろん幸四郎さんご自身もゲスト出演なさっていました。

 

 

 

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真夜中の善と悪の庭で/『真夜中のサバナ』(1997)

とても好きだったケビン・スペイシーがあんなことになってしまって……(最近どうしてるんだろう?)……気軽に話しにくくなってしまったのが残念なんですけど、映画の価値は変わりません。折々思い出す傑作の一本です。むしろ今見るとまた別の味付けを「ちょい足し」したような感じがするかもですね……というわけで、夏休みのおうち時間におすすめな映画の一本として、塩漬け記事を発掘します。若々しいジュード・ロウも儲け役でした。懐かしい方未見作品ハンティング中の方もぜひ。

(旧館日記(『腐女子の本懐~としま腐女子のにっき~』2012/10/10投稿記事の発掘再掲です)

 

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念願のおこもり読書/『ノヴァセン』+『現象としての人間』脳内コラボ

脳内でつながった『現象としての人間』と『ノヴァセン』。他の「人類目線本」も含めて、複数の著者がコラボした「最高のSF」が現在進行形で展開している感であります。
脳内でつながった『現象としての人間』と『ノヴァセン』。他の「人類目線本」も含めて、複数の著者がコラボした「最高のSF」が現在進行形で展開している感であります。

雨の土曜日。あえてネットは覗かずゴロゴロしながら、前回ご紹介した『ノヴァセン: 〈超知能〉が地球を更新する』をようやく読了しました。じつはその前から図書館借りで読んでいた『現象としての人間』という本が手元にあります。期待していたことですが両者につながるイメージがあって、かなりエキサイティングな読書となりました。そこで得たイメージをちょっと書いておきたいと思います。

 

『ノヴァセン』――人類の次にくるものは

 

「ノヴァセン」というのは、「アントロポセン(人新世)」の次に来る地質年代のことだそうで、著者ジェームズ・ラブロックの造語です。(この「アントロポセン」と言う言葉自体、自分はなじみがありませんでした)辞書を引いてみると「nova=(比喩を含めた)新星」、「-cen=世紀(centuryの略)」なので、わりとシンプルというか、そのまんまな言葉ですね。訳者あとがきによると、原書はラブロックの100歳の誕生日に合わせて刊行されたそうです。

 

 前回は「たぶん刺激的な部分はこれから」と書いていたのですが、刺激的を通り越して背筋が凍るような感じと、大きな視野での諦観とを味わいました。ラブロックは地球の過去の大きな区切りとして光合成の開始蒸気機関の発明(産業革命)を挙げます。そして今後、人類のあとを継承していくのはサイボーグであり(一般的な「人間が肉体を改造したサイボーグ」ではなく、人類とは別の無機的生命というイメージで「サイボーグ」という言葉が使われています。シンギュラリティ後のAIを新たな生命体とみなすイメージでとらえました)、光合成をおこなうものが現れたことで動物→人間が生まれたように、人類はサイボーグが生まれる環境を整える役割を担う、それももうすぐ成就するところだ、というのが彼の観察と主張です。まるでSFで、むしろデジャヴを感じませんか?

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GW終了と「人類目線」な本と

GWに読もうと思っていたジェームズ・ラヴロックの『ノヴァセン』。葉っぱは今日の突風で折れた鉢植えのツルニチニチソウです。発見時はぐったりしてましたが、水に差したらよみがえってくれました☆
GWに読もうと思っていたジェームズ・ラヴロックの『ノヴァセン』。葉っぱは今日の突風で折れた鉢植えのツルニチニチソウです。発見時はぐったりしてましたが、水に差したらよみがえってくれました☆

外出自粛のGWが昨日で終了。ですが時間をもて余すどころか、急遽参加したエア/ウェブのイベントが以下の三つもあり、フツーより慌ただしい連休でした!

 

エアコミケ(5/2~5)→開催前日に誰でも参加できると知る。(ウェブカタログ連動と聞いてたので当選サークルさんだけのものかと思ってました!)本のジャンルがすべて一日目だったため、5/2は本の紹介ツイートを作りながらほぼPC張り付き状態でした。

 

#エアブー超GWスペシャル(5/5~11)→赤ブーブーさんのイベントでご案内をいただいて気になってたんですが、申し込めたのは締め切りギリギやはり初日の5/5はツイートを作りながらほぼPC張り付き状態。

 

BL×kindleオンリーWEB即売会(途中参加 ~ 5/31)→登録締め切り2日前に存在を知る。お問合せで主催さまには大変お世話になりました!

 

…というわけで、4/末近くから5/5まではほぼこちらにかかりきりでした。想定外に忙しくなって疲労困憊でありましたが、おかげさまで本に新しいご縁をいただき、やっぱり参加できてよかったな、と思います。(後者二つは現在開催中です。詳細はイベント参加予定エアブー特設ページをご覧ください)

 

さて、そんなわけでGWは終わってしまったのですが、その直前までわりとバタバタしていたため(4/16が確定申告のいちおうの締め切り、そのあと少し仕事が入ってました)、「休みに入ったら読もう」とGW前に入手していた本に今日ようやく手を付けました☆

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(遅ればせながら)祝・新刊"Exhalation"発売/"Omphalos"他感想 +邦訳版『息吹』予約受付中!(出張版テッド・チャンさん備忘録)

装丁はハードカバーのものが好きなんですけど、持ち歩けるようペーパーバックを買いました。 でも結局これでもかさばるので、最近kindle版も買いました。 日本の文庫本てなんてありがたいんでしょう。(笑) 
装丁はハードカバーのものが好きなんですけど、持ち歩けるようペーパーバックを買いました。 でも結局これでもかさばるので、最近kindle版も買いました。 日本の文庫本てなんてありがたいんでしょう。(笑) 

★この投稿は、作品感想や拾った情報を放り込んでいる、テッド・チャンさん備忘録の「出張版」記事です。元サイトがPC仕様なので、モバイル対応のためこちらにもアップしています。 

 

文中の過去記事リンクは、上記の母艦サイト内の記事につながっています。

 

【アップ直前の追記】

購入から半年も経ってようやく感想をアップ……という今日になって、SFマガジンのチャンさん特集号が10/25に発売になっていたことを知りました!しかも新刊収録新作のうちの一つを掲載!ひーん!Amazonではたびたびチャンさんの名前で検索していたのにまったく引っかかってこなかった…!(今でも「SFマガジン」で検索しないと出ない!) 

 

ひとえに私事のための怠慢なのですが、この記事自体書いてから数か月経っておりまして、邦訳版の予約受け付けが始まっていたので追加修正したものです。これ以上書き直していると邦訳新刊そのものが出てしまうので、いろいろ今さらな表現が散見されますがこのままアップさせていただきます。(ぶっちゃけコミケ準備中でしてあまり余裕がなく…!(^^;))というわけで、内容は原書しか見てないときに書いたものなのでご了承くださいませ。

 

それはさておき、上記のSFマガジンは""Exhalation"収録作のチラ見せ(笑)以外にインタビューや新刊未収録作の翻訳も載るようなので、先ほど注文してきました♪(^^)

 

それでは以下感想です。

 

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とてもとても遅くなりましたが、待ちに待ったチャンさんの新刊"Exhalation"、今年5月に発売されました。 ばんざい!\(^_^)/

 

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The Great Silenceと講演ビデオ(出張版テッド・チャンさん備忘録)

SF作家テッド・チャンさんにはこのブログでもたびたび言及させていただいていますが、ほんとに大好きでおすすめな作家さんです。この投稿は、作品感想や拾った情報を放り込んでいる、テッド・チャンさん備忘録の「出張版」記事です。元サイトがPC仕様なので、モバイル対応のため追加記事を個人ブログに平行掲載していたのですが、先日からブログをこちらに一本化したため、今後は「出張版」もこちらにアップしていこうと思います。

 

 

文中の過去記事リンクは、上記の母艦サイト内の記事につながっています。

 

 

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書きかけのままアップできていなかったビデオの記録です。チャンさんがコラボしたビデオアート作品、The Great Silenceの本編動画と、チャンさんによる講演動画を見つけたので……。じつは見つけたのは昨年9月、記事を書きかけたのは11月です。ああう。きちんと見て要約を書く時間がなかなか取れないうちに新刊も出て数か月経ってしまい、ぶっちゃけそちらの記事を上げたいので(^^;)こちらは取り急ぎ動画だけ貼っておきます。

 

一本目はAllora & Calzadillaというアーティストによるビデオインスタレーションで、The Great Silenceはこれに添えるテキストとして書かれました。 

 

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Masterpiece/『ベニスに死す』

 

定番というかクラシックというか。特に腐女子系界隈ではご覧になってる方が多いと思います。初老の作曲家がベニスで見かけた美少年に魅了される話。(これを現代にしてもう少し俗っぽくしたのが、ギルバート・アデア『ラブ&デス』ですね。ジョン・ハート主演で映画化もされました)話はそれだけですが……改めて、もうマスターピースの一言でした。見ていてそれしか浮かびませんでした。そしたら、特典で入ってたオリジナル予告編のコピーもその一言でした。「Masterpiece」。やっぱりそれしか言いようがないんですね。

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営みとして/『ゴッズ・オウン・カントリー』感想

文句なしの傑作でした。ゲイを扱った映画ではあるけれど、予想したような意味では「ゲイ・ムービー」とも「ラブストーリー」とも感じなかった一本です。描写の生々しさを考えれば立派に(?)「ゲイ・ムービー」ですし、チラシには「ラブストーリー」と書いてあるんですけれど。腐女子の自分にとっての「萌え」はほぼなく、それでいて力強く感動的で、引きつけられる映画でした。

 

むしろ強く感じたのは、人の「営み」とはこういうものなんだ、という感覚。そう教えてもらった、もっと言えば「突きつけられた」という感じです。日々働いて生きていくという現実に、ゲイの主人公のリアルを「普通に」織り込んで、むしろ異性愛の映画ではありえないほど、地に足のついた形で表現していました。ゲイの「Equality」(平等/同権)を超えた、新しいレベルのゲイ・ムービーだと思います。それと同時に、少し苦い思いも湧きました。以下の感想では、設定や途中までのなりゆきに具体的に触れますのでご了承ください。

 

さて、主人公はイギリスの田舎の畜産農家の息子ジョン。体が不自由になった父、祖母との三人暮らしです。住居と牧場は人里離れた荒涼とした所にあり、彼はそこを実質ひとりで切り盛りしている…というより、たぶん「させられている」という感覚で働いています。牛や羊への態度を見ると仕事自体を嫌っているわけではなさそうですが、状況に憤りを持っている様子です。

 

一家は彼が頼りですが、父は人格的に不器用な人で、自分が思うように動けない歯がゆさから息子には小言ばかり。そんな父と折り合いがいいわけもなく、ジョンはときどき町のパブに行っては飲んだくれます。行きずりの若者とトイレで手っ取り早くファックをし、相手が好意を見せてもそれ以上の(人間的な)関係は拒絶。そして帰って二日酔いで吐いては祖母にたしなめられる生活。彼がゲイであることは、もちろん父も祖母も知りません。主人公のすさんだ精神状態と息の詰まり具合が、最初のシークエンスで強烈に伝わってきます。

 

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「サン・クレメンテ化」する音楽とサンクチュアリ/『君の名前で僕を呼んで』

劇場で一回見たあと原作を読んで書いた感想です。挿入歌の私的な解釈も少し書いています。ちまちま手を入れてるうちに二か月くらい時間が経ってしまいました(^^;)。長くてすみません。(これでも書き足りなかったりする(笑))原作の映画で省かれた部分の内容に少し触れていて、逆にパンフ等は読んでいないので、そのへんもあらかじめご了承くださいませ。

 

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映画と原作

 

主人公の少年エリオが暖炉の火に照らされながら、ゆっくりと涙ぐんでいく長回しのラストシーン。あそこで流れていた"Visions of Gideon"を今聴きながら書いてます。自分にとってこの映画は、あのワンシーンとこの音楽に尽きます。監督はティモシー・シャラメにこの曲をイヤホンで聴かせながら演じてもらったとか。納得です。あとで書きますが、原作からばっさり切った要素をこの曲が充分に補完して、映画として着地させる役割を一手に引き受けていた感じさえします。

 

正直映画から「物語として」の面白みは感じなかったのです。筋はある意味単純で、美しい二人が出会い、まどろっこしい手順を経て思いを打ち明け合い、体の関係を結び、もともと限られていた時間が尽きて美しく別れる。イタリアというと『青いなんたら』的世界(「お坊ちゃんが大人の女性に性的な手ほどきを受ける」青春映画)が十八番なイメージがあるんですが、ある意味その手のファンタシーの範疇でもあるのかも。でもそれが男性同士の同性愛になると、なんと深遠で美しいものとして、ある意味高尚なものとして描かれることか――女性としては怒らなくちゃいけないところかもしれません。腐女子としては「ごっつぁん」」ですが。(笑)

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癒される/『モーリス』4K版鑑賞してきました。

アレック・スカダー
今回のチラシをゲットし損ねたので、代わりに過去絵を掘り出して少し手を加えてみました。(今ならこうは描かないかもしれないな、とは思いますが……(笑))アレック・スカダーを演じたというだけでもう、ルパート・グレイヴスは永遠です。(断言)

今回の上映について

4K版『モーリス』劇場公開、うちから唯一行けそうな恵比寿の最終週になってしまいましたが、滑り込みで鑑賞して参りました! ほんとに行って良かった……大げさに聞こえるかもしれませんが、生き返りました。ほんとに。こんな映画を作ってくれてありがとう……!そう改めて思いました!

 

やはり好きなのでDVDではしばしば見返していますが、今回は4Kだからというより「劇場で見る」というのがやはり特別でした。……真っ暗な空間で集中して大きなスクリーンで見ることが。そして暗い中でちょっと恥ずかしく思いながら涙を拭いたときに、隣の知らない人も目にハンカチを当てる仕草をしているのがそれとなく目の端でわかったことが――今回の鑑賞をとても素晴らしいものにしてくれました。

 

この作品、見返すたびに違うところに目がいったりもする作品です。今回すごく感じたのは(ちょっとこういうことを書くのは恥ずかしいのですが)、美と品のよさは人を癒やすのだなあ……ということでした。美しく品があり、かつこういうテーマで良質の作品にどっぷりと浸る時間の、なんと贅沢なことか。

 

(品という言葉は使うのが難しいのですが、キャラクターが上流階級かどうかとか、肉体的な露出度とは関係なく、という意味で。上流階級を描いても「安い」作品はたくさんありますよね)

 

それだけ落ち着かない日常を過ごしているのだなーと自覚したわけですが(^^;)、そういう生活のなかでこそ、こういう時間は絶対に必要なものだとつくづく感じました。心のゴハンなのですよね。

  

以下は作品そのものについて、以前薄い本にルパート・グレイヴスがらみで書いた紹介レビュー(定番作品なので紹介というよりおさらい、という感じで書きました)に、今回感じたことを交えて掲載します。ちょっと文章のノリが変わりますがお許しくださいませ。また、おさらいと言う性質上、ラストについても方向性にぼんやりと言及しているので、未見の方はどうぞご判断くださいませ。

 

 『モーリス』(1987)――作品について

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魔法が科学に変わる時:AIで「蘇る」故人

いつも見ているニュース番組で、ちょっとした「SFが現実になる瞬間」を体験しました。 

AIで残す“人の思い”(キャッチ世界のトップニュース)

 

「AIで故人とのコミュニケート(に見えるもの)を可能にする」という話題で、恋人を亡くしたIT起業家の女性が、AIに生前の恋人の言動の記録を学習させ、彼とチャットができるアプリを開発したというもの。返してくるジョークのセンスまでそっくりだそうです。亡くなった恋人自身が、故人の記録をAIに落とし込むことには興味を持っていたとのことでした。

 

で、「状況設定」や「映像」が、ちょっと前に見たSFドラマシリーズ『ブラックミラー』の『ずっと側にいて』というエピソードにすっかり重なって見えたんです。

 

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『青い紅玉』改めて傑作でした❤

原作は新潮文庫。グラナダ版DVDはハピネットの二代目と廉価なデジタルリマスター版。最近はあまり見ていませんが、見直す時はほとんどリマスター版です。初代ハピネット版はだいぶ前に友人のところへ嫁に出したのですが、モリアーティー教授の写真がついた外箱が好きで、箱だけ手元に残させてもらいました。
原作は新潮文庫。グラナダ版DVDはハピネットの二代目と廉価なデジタルリマスター版。最近はあまり見ていませんが、見直す時はほとんどリマスター版です。初代ハピネット版はだいぶ前に友人のところへ嫁に出したのですが、モリアーティー教授の写真がついた外箱が好きで、箱だけ手元に残させてもらいました。

今、クリスマスにそなえてホォムズとワトスン(うちのギャグ漫画版で「ホームズ」でなく「ホォムズ」(^^))のごあいさつ画像を描いているのですが、先日ネタ出しをしていたとき、「そうだ、ホームズさんのクリスマスといえば『青い紅玉』!」と思いつき、久しぶりに原作を読み直してみました。「クリスマス・ストーリー」としての工夫がこんなに詰まっていたのか……と改めてドイルせんせに惚れ直し、ついでにグラナダ版も見直していろいろ思うところがあったので、書き留めておこうと思います。(※原作、およびグラナダ版独自の脚色点のネタバレになってしまうので、未読・未見の方はご注意くださいませ)

 

…さて、タイトルは『青い紅玉』で記憶していながら、愛読してる原作はタイトルを『青いガーネット』と訳している新潮文庫版なのですが……(なので、『追憶のシャーロック・ホームズ』の文体は延原訳がお手本です)以前はふんふんと読み流していた部分の工夫やユーモアがすごく感じられて、目からウロコが落ちっぱなしでした。全体にコメディ感とほのぼの感がこんなに工夫されていたんだなあ、と。

 

冒頭では別の意味でびっくりで。というのは、すっかり「クリスマス当日の話」だと思い込んでたんですが、じつは「クリスマスの二日後」の話だったんですね。しかもこの時ホームズとワトスンは別居中(違(笑))。…たぶんグラナダ版でスリコミすぎたために、自分のなかで「2人は一緒に住んでて『青い紅玉』はクリスマス当日の話」になってしまってるんだと思います。(^^;)

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「こんなにも自分を嫌わずにいられたら」/『真夜中のパーティー』(1970)映画と戯曲感想

 

公開当時ゲイムービーのエポックメイキングだったという『真夜中のパーティー』。レンタルで鑑賞しました。ゲイ仲間のバースデーパーティーに事情を知らないストレートの旧友が訪ねてきて……という集団心理劇。もともとは舞台劇で、ニューヨークの1960年代のお話です。じつは以前、大好きなマーク・ゲイティス氏がイギリスでこれの舞台に出演(しかもリアルの「夫」様と共演!)とTwitterで宣伝していて、調べたら映画化作品のコレがあったので、「見たいなー」と思い続けていたのです。そしたら少し前に、運よく近所のツタヤの良品発掘コーナーに入ってきたのでした。

 

さて、設定だけ見るとコメディにもなりそうなお膳立てなんですが……けっこうつらい映画、かつ引き込まれる映画でした。というのは、ゲイであることをメタファーとして、「生きにくさ」を抽象的なレベルで自分に引きつけて見ることができるからです。そういえば一般映画として公開されるタイプのゲイムービーって、こういう「生きづらさへの共感」が大きな要素としてあるなあ……と思いました。この作品は腐女子目線でも萌え要素はほぼゼロですし、60年代風俗が今見るとイタかったり、不愉快なくらい「辛い」ところもあったのですが、なぜか返却するまでに三回見返してしまいました。別の引力があるんです。(音楽にも時代感があって……子供の頃エレクトーンで習ったバート・バカラック『ルック・オブ・ラブ』が使われてたりして、初見なのに妙なノスタルジーも味わいました。(^^))

 

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『ダンケルク』鑑賞といろいろの日

今日はちょうど仕事の納品を終えたタイミングで、見たかった『ダンケルク』をすべり込みで鑑賞してきました。

 

第二次大戦時、フランスのダンケルクの海岸に追い詰められた英軍兵士を、対岸のイギリスから民間船が協力して救出した、という逸話を映画化したもの。この出来事自体はドラマの『刑事フォイル』で初めて知りまして、以来興味がありました。その題材の映画化、これはぜひ見ておかなくちゃ!と思っていたのですが、仕事の他イベントが続いていたのもあり、なかなか時間がとれずとうとう最終日の鑑賞になってしまいました。でも行けてよかったです!(このへんの歴史はイアンの「領域」でもありますし!)偶然ですが、すこし前にご紹介した"Queers"で初々しいゲイのティーンエイジャーを演じていたフィン・ホワイトヘッド君も出ているというので、こちらも楽しみでした。メインキャラは複数ですが、ホワイトヘッドくんの役はその中でもメイン中のメインでありました。

 

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家族とは/『キッド――僕と彼氏はいかにして赤ちゃんを授かったか』感想

アメリカのゲイのカップルが養子縁組をするまでのノンフィクション。コミカルなタイトルが表す通り、中の文章もかなりコミカル(でシニカル)。シリアスなネタも下ネタも、カジュアルにツルツル読める文章です。遅読な私が二日で読んでしまいました!(笑)

 

読んだきっかけはもちろんゲイのカップルについてのリサーチだったんですが、それ以上に「なぜ子供がほしいのか?」も興味がありました。自分自身にそういう願望がまったくないこともあって、ゲイのカップルが「わざわざ」子供をほしがるという心理が知りたかったんです。

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横浜古書店散歩とポケミスの「ホモセクシュアル探偵」ブランドステッター・シリーズ

(先日古書店散歩したときの記録にリンク等を加えたものです)

 

2017/06/06 15:43

馬車道のカフェでポメラで書いています。今日はぽかっと時間が空いたので、ちょっと前から気になっていた黄金町(こがねちょう)~伊勢佐木町(いせざきちょう)界隈の古書店散策に来ました。このあたりは以前は映画館がたくさんあって、古書店もついでによく回ってたんですが、ネットで調べたら知らなかった店もあったのでいつか行ってみようと思っていました。ちょうど曇って涼しくなり、歩き回るには最適です。(文末に地図も載せときますね)

 

さて、今回はほしい本がありました。それが最近読み出したポケミスのブランドステッター・シリーズ。残念ながら邦訳は絶版で古書を探すしかないのですが、デイヴ・ブランドステッターという保険調査員が主人公の「ホモセクシュアル探偵」シリーズです。知った経緯はまったく別の方向で、今はまっているレトロ狙い(60~70年代あたり)とイアンシリーズの遠回しな資料漁りで、同じポケミスの『冷戦交換ゲーム』というのを図書館で借りて読んだとき、巻末の既刊紹介に「話題のホモ探偵」とかいう(うろ覚えですが)紹介文を見つけたのです。『冷戦交換ゲーム』は今も刊行中ですが、図書館の本は初版でだいぶ古く、当時たぶん「ゲイ」という言い方は一般的でなかったからこういう表現なんだろうな……と思ったんですが、のちに作者がゲイという言葉が嫌いだったと判明。

 

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『第一次世界大戦はなぜ始まったのか』と『サラエヴォの銃声』

イアンものの肥やしに、相変わらずヨーロッパ近代史(現代史?)を漁っております。そんななかの拾いもの。本と映画のご紹介です。

 

『第一次世界大戦はなぜ始まったのか』

 

まずは『第一次世界世界大戦はなぜ始まったのか』。今の興味とドンピシャのタイトルなので購入しました。これ、買ったあとにアマゾンのレビューを見たら低評価が多めでびっくりしたんですけど、内容が悪いというより、「素材を素材のまんま印刷しちゃった」感じなんですね。なんというか、食べやすい大きさに切るとか、食欲が湧くように盛りつけるとかがされてない。レビューでも編集がやり玉に挙げられてますが、その通りだと思いました。

 

原稿執筆から体裁のデザイン・広告までやらねばならない一人出版社状態の身としては、文章を読みやすく整えるくらいは著者の仕事ではとも思えるのですが、著者がホームページに掲載していた文章をまとめたものらしい、とレビューで指摘されてるので……ここからは想像ですが、もしも「このコンテンツ、本にしませんか?」「いいですよ」程度のやりとりで突貫工事でできた本だとしたら――というのは、奥付を見ると第一次世界大戦100周年にばっちり合わせたタイミングで出ているんですよね――そのマーケティング的な都合で、結果双方がタッチしない、責任と責任の狭間の真空ゾーンができてしまったのだとしたら(こういうことは組織の仕事ではよくあるんですけど)、あまりにも素材が勿体ないし、著者に責任を問うのも酷ですよね。とにかくプレゼンテーション――盛り付け方って大事だな、と思いました。本もお料理と同じですね。

 

なんかへんな切り口から入ってしまいましたが、内容は今まで知らなかったことがいろいろ書いてあるし、レビューの一つで提案されてる通り、しっかり編集作業をしたら魅力的な本になったのではと思います。それと、面白い箇所がじつは話が飛んでるところなんです。いきなり帝国主義時代の日本との比較が挟まってたりするんですけど、そのへんのアナロジーこそがオリジナリティを感じるところだし、「へええ!」と「掴まれる」ところなので。ただ、通史として読もうとしているといきなり話題が変わるので面喰いますね。あと、固有名詞の説明が少ない。ここはやはり編集しだいでしょうね。

 

 

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正統派(?)古本屋さんと「昔の新書」

正統派(?)古本屋さん

 

書きかけのまま、なかなかアップできなかった記事です。(^^;)もう先月のことになってしまいましたが、自宅から歩いて30分くらいの、しばらく(ウン十年くらい?)行っていなかった辺りに散歩に行きました。あまり人けがないところですが、昔おいしくて安価なパンとケーキのお店があったんです。で、それを目的に(笑)。でもショーケースは空だし、店員さんもなく、なんだかごちゃっとしていたので……「閉業準備?」と落胆。…あとで「午前で商品がなくなる人気で、午後に行ったためスッカラカンだった」ことが判明しました。(今度リベンジします!)

 

で、その二、三軒隣に、記憶になかった小さい古本屋さんがありました。なんとなくで入ったのですが、これが掘り出し物のしっかりした「古書店」! 今よくある「リサイクル書」ではありません。「古書」です。神保町の専門店にあるような意味での「古書」。ものすごく敷地が狭いので本は少なかったですが、専門書のジャンルの分け方、その内容など少数ながら本格的で、「古書店の空気」を一瞬吸えた気が。こんなに近くにこういう場があったとは…!と嬉しくなりました。ブックオフ系ならあるんですけど、やはり雰囲気違いますもんね……。で、隅から隅まで見て、ちょうどそのとき探していた古い新書があったので購入。200円ナリ。(写真がそれです。良書なのでのちほどご紹介します♪)レシートが出ませんが、と言われたのでそのまま本だけ頂いて来ました。

 

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最近読んだ本から五冊(+三ツ矢雄二さんのお話少し)

ここのところきちんとした読書に集中するのが難しい状態が続いて参っていたのですが、ネット接続の時間を意識して制限するようになったせいか、だいぶ本が読めるようになってきました。そのなかからいくつか。

 

大事なことに集中する

ネット接続の時間を減らすのに背中を押してもらった本。自分の場合、成果を出したいとかいう以前にもう、ほんとに物が考えられないというか、まともに本も読めない状態になってしまい、ほとんどノイローゼに近い状態になってた(^^;)ので、以前個人ブログのほうでちらっと書きました『ネット・バカ』と同じ文脈で大変助かりました。(あ、今どき「ノイローゼ」って言葉はあんまり聞かないですね(笑)) 奇しくも『ネット・バカ』の原題はThe Shallows (シャロー=浅い/浅薄な)、だったんですが、この本では集中・没入するタイプの仕事「ディープ・ワーク」マルチタスクなど散漫な状態でする仕事「シャロー・ワーク」として対照させています。

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不在者への恋文/『イヴ・サンローランへの手紙』

君はアーティスト、そして私は絶対的自由主義者。

ところが人は私たちを実業家に変装させた。とりわけこの私を。

(『イヴ・サンローランへの手紙』p.55 ピエール・ベルジェ/川島ルミ子訳 )

 

2008年に亡くなったデザイナーのイヴ・サンローラン。ほぼ同時期に作られた伝記映画2本(『サンローラン』『イヴ・サンローラン』)を先日鑑賞しました。そのあと読んだのがこれです。サンローランはゲイだったそうで、著者は50年間公私にわたってパートナーだったピエール・ベルジェ。(表紙写真の右がベルジェ、左がサンローランです)サンローランの死の直後から約1年間の出来事、回想などが書かれた本で、ある意味極上のJUNE文学でした。おすすめです。

 

…ちなみに自分はもともとブランド品に興味がなく(^^;)、サンローランもかろうじてデザイナーの名前だと認識していた程度。「イヴ」なんて女性かと思っていたくらいです。(スペルが違うんですね。ブランドマークにも入っているYでYves。知らなすぎてスミマセン)サンローランがゲイだったことも、もちろん映画で初めて知りました。なので、あくまで(ブランドへの思い入れなしに)鑑賞している立場だということをお断りしておきます。

 

イヴのことを思うとき、わたしがまざまざと思い浮かべるのは、

ディオールでの彼の最初のコレクションの後で知り合った近眼で内気な青年だ。

私の手を取り、連れていくようになる青年。栄光に出会ったことを、それが二度と彼を放さず、

スタール夫人が言うように「幸せの華やかな喪」をもたらすことを

彼がまだ知らなかったこの壊れそうな瞬間を私は思う。

彼は二十一歳だった。(p.176-177)

 

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新刊無料配信準備中+E. H. カーとハエ取り壷

新刊無料配信準備中

 

さて、GWのイベントシーズンが近づいてきました。準備中の皆様おつかれさまです! 今回はスパコミ等の同人誌イベントに申し込んでいないので留守番なのですが、先日のJ庭で無料配布させていただいた歴史ライターイアン・ワージングシリーズの短編を、kindleで無料配信しようと思っています。シリーズ三作目ということになります。三つになると、なんかほんとにシリーズっぽくなってきた気がします!(笑)

 

二作目のHistory: 低体温男子イアン・ワージングのハロウィーンはその後有料でちらほらお読みいただいていて(ありがとうございます!)、今後また無料化するのは有料で読んでくださった方に申し訳ないので、キャンペーン用の本を新刊に移行するつもりで現在kindle版制作中です。

 

 ←表紙は今のところこんな感じです。色具合等手を加えるかもしれませんが。

 

(kindleの無料配信は、うちのような規模の発行者は今のところ三ヶ月にい五日しかできません。うちの本は無料化できるものとできないものがあるのですが、できるものはリリース時に無料にし、その後有料デフォルトという流れを想定しています。いつもチェックして下さってる方々にはなるべくお得に お届けできるように、と願っております☆m(_ _)m)

 

『History…』がシリアス寄りだったので、今回は一作目のネガティヴ・ケイパビリティ: 絶食系男子イアン・ワージングのレイライン紀行の雰囲気に近いものにしようと、コミカル強めになっています。目標(?)にしている「BL版寅さん」の要素(主人公がけっこう惚れっぽい)を前面に出し、かつ初めてのゴーストライターの仕事をするという内容です。間に合えばGW中に、間に合わなければそのあとの週末あたりをめやすに無料配信をしようと思っています。ぜひ読んでやって下さい。

 

kindleをお持ちでない方は無料アプリでお読みいただけます。こちらからぜひどうぞ。

 

kindle無料アプリ

 

 

E. H. カーとハエとり壷

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『坂田靖子 ふしぎの国のマンガ描き』/「やおい」と「JUNE」と「色気」の話

大好きな坂田靖子先生のデビュー40周年記念本が出ました!おもな感想は個人ブログに書いたのですが、そこで書ききれなかった「やおい」「JUNE」のお話、イモヅル式に創作に関して思ったこともちょろっと書かせていただきマス。(連動企画の原画展は明日からですね。ぜひ行きたいです!)

 

直後に届いたデアボリカ通信(坂田先生が発行しておられるニュースレター)と原画展DMをまじえて記念撮影。今回の切手は「けんちん汁」♪

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火星の人のDIY/『オデッセイ』アンディ・ウィアーとマット・デイモン

 映画『オデッセイ』周辺についていろいろ書きます。(パンフは買ってないので、そちらと重複してることをさも新しげに書いてるとか(^^;)、あるいはそちらですでに説明されてる疑問とか呈してましたらご容赦下さい)

  

初日に見に行きましてすごく面白かったんですが、ここは創作・作品関連の話題に絞るブログなので、ミーハーネタ(ちょい役で出ているジョナサン・アリスさん等)は個人ブログのほうできゃーきゃー騒ぐとして(笑)、こちらで書きたいのは…やはり原作の『火星の人』が、もともとはkindleで出された個人出版本だというところです。映画公開前に英語圏のTwitterで流れてきまして、へえ、と思ってご本人のサイトを見に行きました。最初に『火星の人』の日本での紹介を目にしたときには知らなかったので、ちょっと驚きました。

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