真夜中の善と悪の庭で/『真夜中のサバナ』(1997)

とても好きだったケビン・スペイシーがあんなことになってしまって……(最近どうしてるんだろう?)……気軽に話しにくくなってしまったのが残念なんですけど、映画の価値は変わりません。折々思い出す傑作の一本です。むしろ今見るとまた別の味付けを「ちょい足し」したような感じがするかもですね……というわけで、夏休みのおうち時間におすすめな映画の一本として、塩漬け記事を発掘します。若々しいジュード・ロウも儲け役でした。懐かしい方未見作品ハンティング中の方もぜひ。

(旧館日記(『腐女子の本懐~としま腐女子のにっき~』2012/10/10投稿記事の発掘再掲です)

 



なんとなく見返したくなって深く考えずに借りてきたんですが、なんだか初見のとき以上にノックアウトされた気がします!クリント・イーストウッド監督の1997年作品で、ご本人は出ていません。代わりに(?)娘さんが出ています。(最盛期のメグ・ライアンを少し大人っぽくした感じの金髪美女!)イーストウッド監督作のなかでもちょっと異色作かもしれません。原題は "Midnight in the Garden of Good and Evil"(真夜中の善と悪の庭……正確には「善と悪の庭における深夜」?(笑))。原作はノンフィクションのベストセラーだそうで、実際に起きた殺人事件を元にした映画です。あからさまな意味でも腐女子にとってはフックはあったのですが、映画全体の雰囲気が、初見時もとても好きでした。ちょっと『ツインピークス』とかに通じる不思議系の匂いがあります。

 

ミステリー要素はあるんですが、推理ものとはまったく違う味わいです。幕開けから、アカペラで流れるスタンダード・ナンバーの『スカイラーク(Skylark)』と、カメラが行き着く墓場の彫像両手にお皿を乗せた女の子の像で、特典映像では「バード・ガール」と書かれているので、お皿に鳥の餌でも乗せるのかも…これが陰気で不吉な風情を持っていて、同時に天秤を持つ正義の女神も連想させます。原題にある「庭(garden)」はこの墓場のことで、メインキャラクターの成り上がり富豪が頼みにしているブードゥー祈祷師が活動する場所でもあります。原タイトルの「真夜中の善と悪の庭」と、映画全体のミステリアスなトーンがみごとに表現されたオープニングでした。

 

 

アメリカ南部の都市、サバナに住む富豪ジム・ウィリアムズのクリスマスパーティーを取材に行ったライター、ジョン・ケルソーが狂言回しです。彼の滞在中にウイリアムス邸で殺人事件が起き、容疑者になったウィリアムズは正当防衛を主張します。事件の直前、被害者の若者がその雇い主でもあるウィリアムズに金を要求し、脅している現場を目撃していたケルソーは、事件を本にまとめようと街の人々に取材を始め、美しい街に隠蔽された、風変わりな住人たちの複雑な人間模様が見えてきます。果たしてウィリアムズはシロなのかクロなのか……

 

狂言回しのライター(原作本の著者にあたる役ですが、架空の人物)がジョン・キューザック。なぜか昔からちょっと苦手なタイプですが、狂言回しの役割にふさわしい、礼儀正しくて目立たないトーンがよくはまってました。(←褒め言葉)彼とイーストウッドの娘さんが取ってつけたようにいい仲になりますが、不自然だと思ったらやはり脚色での工作でした。主役には恋愛要素が絡まなきゃいかんという規律でもあるのかな。(笑)

 

実質上の主人公ともいえる成り上がり富豪ウィリアムズが、この時期絶好調だったケビン・スペイシー。シロかクロかわからない、ミステリアスな感じはお手の物。お顔はキュート系ハンサムなのに、頬にあるシワだか傷跡だか(?)と表情が、一筋縄ではいかない感じで独特ですね。この映画では実在の人物を演じているので、本人に似せたわざとらしい髭付きです。この時期のスペイシーはほんとにハンサムで眼が可愛くて、それでいて複雑さがあって、今が旬のマーティン・フリーマンをちょっと連想してしまいました。まったくタイプは違うのですが。(^^;)

 

被害者の貧しい若者が、初々しいジュード・ロウ。出番は少ないですが、粗暴な小悪魔という感じで、ピンポイントで強烈な印象を残します。特に最後の出番での無言の表情は映画全体のトーンを決定づけていてお見事でした。ご同好の腐女子系深読みスキーの皆様には、とくにおすすめできます! このキャラの生前の行動は住人たちの証言で少しずつわかってくるのですが、いろいろな意味でおいしいキャラ。普通の意味でも儲け役だと思います。


(ロウはこの手のおいしい役が多いのに、なぜか個人的には「萌え」を感じない俳優さんです……自分でもなぜなのかわかりません。(^ ^;)が、この映画の彼はまさにはまり役でした。同じ頃公開された『オスカー・ワイルド』では、ワイルドのわがままな恋人ボジーをやっていました。ワイルド役がスティーヴン・フライで、ガイ・リッチー版ホームズのマイクロフトとワトスンになるお二人の、華麗な過去(?)ということになります。リッチー版の人気にあやかってDVD化してほしいものです!)

 

脇の人たちもみんなすごくいいんですが、今回は富豪の友人で弁護士をやったジャック・トンプソンという方がすごく好きでした。萌えとか無関係な太ったおじさんですが、陪審員を前にしたときの演技とか台詞回しとかが、見ていて「至福」を感じさせました♪同じシーンで印象的だった裁判長も気になったんですが、この裁判長、じつは富豪の弁護士さんご本人だったそうで、びっくりしました。ほかにもサバナ在住の「ご本人」が演じている役を特典映像で見せてくれますが、プロの俳優に混ざってもまったく違和感なかったです。(ご本人以外演じられない、という役もありました!)

 

サバナは「アメリカで一番美しい街」と解説されているのですが、街中に葉っぱが下垂している大木が生えています。不思議な木だなあ……と思ってたんですが、調べたらオークスパニッシュモスというエアプランツがついているのだそうです。クラシックな街並みと、下垂したエアプランツのせいで陰気に見える木々明るい青空という組み合わせの、独特で美しい風景です。そしてそこに住む風変わりな住人たち。先ほどのブードゥーの祈祷師のほか、見えない犬を散歩させる男ワケありの黒人美魔女(これはジュード・ロウ以上の儲け役)……などなどたくさん出てきますが、すべて実在の人物で、特典映像では映画に出演はしなかったご本人たちも顔を見せています。

 

たぶんその風変わりな住人たちの描写が、半分くらいは眼目なのだと思います。でもやっぱり、芯になる殺人事件=富豪と雇われた若者の愛憎関係の描写が、とても好みのさじ加減でヤられました。これも個人的な「腐女子の基本映画ベスト100」では間違いなく上位に入る作品です♪(……んなリスト作ってないですが!(笑))

 

クリント・イーストウッドの監督作品は(最近のものはあまり見ていないのですが)、いい意味で「アメリカ人らしからぬ」(?)あいまいさや、雰囲気・余韻を大事にするところに魅力を感じます。(そういえば、ファンフィクで引用した『ホワイトハンター ブラックハート』もイーストウッドの監督作で、主演を兼ねていました。これも独特の余韻を残していた印象が。(うろ覚えですが……)ナチュラルにJUNEな感覚をお持ちなんだろうな……などと勝手に認定


(※自分のほざく「JUNE」はモーホー要素なくても成立するアレです。なんか切なかったり、かっこよかったり、ぎゅっと鷲づかまれる「あの感じ」……って説明になってないですね。(^ ^;)スミマセン。でもなんとなく通じる方には通じるかと❤)

 

(再掲Fin.)


 

文中で触れた「ファンフィク」は海外ドラマ『SHERLOCK』ドはまり期に書いた二次小説で、現在は無料ダウンロードコーナーに置いております。当初自分の楽しみのために書き出したものですが、その後ご好評をいただき愛着も出た一本です。ご同好の方がおられましたらどうぞ。

 

無料ダウンロード