横浜古書店散歩とポケミスの「ホモセクシュアル探偵」ブランドステッター・シリーズ

(先日古書店散歩したときの記録にリンク等を加えたものです)

 

2017/06/06 15:43

馬車道のカフェでポメラで書いています。今日はぽかっと時間が空いたので、ちょっと前から気になっていた黄金町(こがねちょう)~伊勢佐木町(いせざきちょう)界隈の古書店散策に来ました。このあたりは以前は映画館がたくさんあって、古書店もついでによく回ってたんですが、ネットで調べたら知らなかった店もあったのでいつか行ってみようと思っていました。ちょうど曇って涼しくなり、歩き回るには最適です。(文末に地図も載せときますね)

 

さて、今回はほしい本がありました。それが最近読み出したポケミスのブランドステッター・シリーズ。残念ながら邦訳は絶版で古書を探すしかないのですが、デイヴ・ブランドステッターという保険調査員が主人公の「ホモセクシュアル探偵」シリーズです。知った経緯はまったく別の方向で、今はまっているレトロ狙い(60~70年代あたり)とイアンシリーズの遠回しな資料漁りで、同じポケミスの『冷戦交換ゲーム』というのを図書館で借りて読んだとき、巻末の既刊紹介に「話題のホモ探偵」とかいう(うろ覚えですが)紹介文を見つけたのです。『冷戦交換ゲーム』は今も刊行中ですが、図書館の本は初版でだいぶ古く、当時たぶん「ゲイ」という言い方は一般的でなかったからこういう表現なんだろうな……と思ったんですが、のちに作者がゲイという言葉が嫌いだったと判明。

 

で、読んでみたらとても好みで。主人公のデイヴはすでに四十代なかば。今で言うオープンなゲイですが、原書の刊行は1970年で、デイヴは第二次世界大戦に従軍していた世代です。私生活のあれこれ――長年暮らしていた恋人との死別、新しい恋人とのうまくいかない関係など――が調査の合間に描写され、かつ扱う事件にも同性愛者が絡むのですが、ことさらセクシーなシーンは強調されていない印象です(今のところ)。むしろヘテロ男性が主人公の探偵小説で描かれる女性絡みのシーンよりあっさりしてるくらい。デイヴは「大人」で落ち着いていて物言いがそっけなく、容姿はあまり描写されませんが、「エレガントな」瘦せ型だそう。かっこいいです。地の文はデイヴの観察眼の反映なのか「目に見えるもの」をすごく細かく描写していて、ジャンルとしては「ハードボイルド」なんだそうです。詳しくないので「これがそういうものなのか」と思いました。

 

この「主人公が同性愛者であることがごく自然に描かれている」ところが自分のやりたい方向と合っていて、すごく興味をそそられましたし、読みやすくもありました。(イアンシリーズはBLとブランドステッターの中間くらいでいけたら理想です)しかし「主人公がオープンなゲイで中年のハードボイルド探偵小説」。そういうものがすでに70年代に書かれていたんですね。自分にとってはちょっとした発見でした。でもその後、アマゾンでこのシリーズを検索したら、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」に翻訳もののBL・MM小説が並んでいて、ああ、この系統が好きな人には定番だったのね……と遅ればせながら知ったしだいです。

 

まだ読了したのは2冊だけですが、シリーズは全12冊。最初に読んだのは邦訳では一冊目の『死はつぐないを求める』でした。保険調査員なので生命保険の支払い請求に応じて死因を調べに行きます。(これは毎回このパターンらしい)このときデイヴと一緒に暮らしている相手とは、互いに前の恋人と死別していて、その面影を相手に見ているところからギクシャクしてくるんですね。原題の『Death Claims』は保険会社の「死因調査部」の意味もあるそうで、内容に照らすと直訳の「死は求める/死が当然のものとして所有権を主張する」から、邦題のイメージ――「死んだ恋人」の存在感ゆえの苦悩――と、デイヴの仕事である死因調査の掛詞になっています。メインストーリーは仕事の事故・事件の調査のほうですが、やはりキャラの心情は裏のメインディッシュですよね。すごく繊細な感覚があっさりと描かれていて好みなんですが、そのわりにどうも過去の説明がはしょられすぎだなあ……という印象がありました。調べてみたら、じつはこの作品は原書ではシリーズ二冊目なのでした。で、それを読み終わりかけてた時に黄金町近辺の古書店(『サラエヴォの銃声』を見に行ったあとに見つけた川崎書店さん)でこの作品を含むシリーズ三冊を見つけ、次に一作目にあたる『闇に消える』を読みました。デイヴの過去がわかってより面白くなってきました。やはり順番通りに読むべきかもしれません。

 

そういうわけで、今日はこのシリーズ……できれば次に読みたい三作目の『トラブルメイカー』が見つかれば最高、という感じで来たんですが、なんと!今日見つかったのはこの『トラブルメイカー』のみでした! それも最初に行った紅葉堂長倉屋書店さんで見つけました。当初は存在も知らなくて行くリストに入っていなかったお店ですが、今朝「行って休みだったら泣くなー」と思って確認ついでに検索していて、近くにあったここをリストに加えたのでした。ただ、ポケミスが一つの棚丸ごと占領していたのは嬉しいんですが、配置がなぜか18禁エリアにかけられたカーテンの真ん前で、角度がついているので棚を見てると18禁エリアをカーテンの隙間からのぞくようなかっこうになるんですよ。実際に中が見えるし(^^;)。中におじさんがいてすごく気まずかったけど、がんばって棚の背表紙すべてに目を通した甲斐がありました。もう今日は呼ばれたとしか!(笑)ちらっと読んだところですが引き込まれてます♪

 

さて、これまで読んだ二冊の巻末解説によると、作者のジョゼフ・ハンセン(1923~2004)は妻帯者……というので、てっきりヘテロかと思っていました。でも英語版Wikiを見たら奥様はレズビアンだったそうで、「たまたま互いを愛したゲイの男と女」なんだそうです。(前述の通りご本人はゲイという言葉がきらいで、自分のことは「ホモセクシュアル」と言っていたそう)お子さんも授かっていらっしゃいますが、奥さんのほかに長い交際をした男性の恋人が二人いたとのこと。…なるほど、と思いました。作中で「ゲイの男性と結婚した女性」というのがごく自然に出てくるんです。それが別に偽装結婚ではなく、本気で愛してるんですね。だからこその葛藤も淡々と説得力がありました。ハンセンはハリウッドで最初のゲイ・プライドの計画にも協力したそうで、その方向でさまざまな活動をなさった方のようです。(ワシントンポストの訃報記事"Joseph Hansen; Created Gay Detective"参照)

 

そんなこんなで、久々に小説ではまれるものに出会ったので、良いモチベーションも得ました。もしイアンシリーズの商品ページにブランドステッター・シリーズが表示されてくれたらもう最高じゃないか、一緒に読んでいただけるくらいにがんばりたいなあ……なんて新たな目標に。(笑) とはいえ、邦訳のkihdle版は今のところないので、ちと見果てぬ夢です。でも好きなものにははびこってほしいので、kindle化希望ボタン押しときます!(紙の復刊よりはコストかからないはずだし!!)

 

 

一冊目の『闇に消える』にリンクしておきます。よかったら「kindle化リクエスト」に清き一票を。(笑)

 

…で、今日買った本は結局『トラブルメイカー』だけです。でも大満足。ぶっちゃけこのシリーズはアマゾンのマーケットプレイスでも手に入るんですが、たとえ1円でも送料入れると258円になっちゃうんですよね。この前見つけた三冊が100円だったもので(笑)、そのあたりで見つからないかなあ……と思ったのと、なんとなく「足で探したい」タイプの本なのです。すぐほしい、というのではなく、少しずつ見つけて読んでいきたいなあと。手に入れた本はかなり日焼けしてますが210円だったので、散歩全体が楽しかったことも考えたら電車賃入れても(笑)大満足でした。

 

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もともと伊勢佐木町近辺は「レトロモダンで昭和感のある映画の街」として好きだったんですが、大きな映画館がなくなってからはあまり来なくなっていました。でも最近またジャック&ベティさんで時々映画も見るようになったし、これまでは神保町まで行かないと見られないと思っていた「古書店らしい古書店」が近場に複数あるとわかったので、ちょくちょく気晴らしに来たいなーと思います。休めるカフェもあるし、横浜駅周辺がごちゃごちゃしてるのに比べると、ずっと落ち着けて好きな街です。新しく工事をしている店をたくさん見かけたので、またどんどん変わっていくのかもしれないですね。レトロなところは残してほしいものです。

 

お土産に買ってきた花見煎餅。横浜名物の一つです。

  

 

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以下のページを参考にさせていただきました。

 

伊勢佐木町には古書店が多いの?[はまれぽ.com]

 

 

この地図はもうなくなってるお店も入ってるかもしれません。

(私が見つけられなかっただけかもしれませんが……)

 

 

Google Map 「伊勢佐木町 古書店」検索結果

 一部「横浜関内周辺古書店」にないお店も出ています。