★この投稿は、作品感想や拾った情報を放り込んでいる、テッド・チャンさん備忘録の「出張版」記事です。元サイトがPC仕様なので、モバイル対応のためこちらにもアップしています。
文中の過去記事リンクは、上記の母艦サイト内の記事につながっています。
【アップ直前の追記】
購入から半年も経ってようやく感想をアップ……という今日になって、SFマガジンのチャンさん特集号が10/25に発売になっていたことを知りました!しかも新刊収録新作のうちの一つを掲載!ひーん!Amazonではたびたびチャンさんの名前で検索していたのにまったく引っかかってこなかった…!(今でも「SFマガジン」で検索しないと出ない!)
ひとえに私事のための怠慢なのですが、この記事自体書いてから数か月経っておりまして、邦訳版の予約受け付けが始まっていたので追加修正したものです。これ以上書き直していると邦訳新刊そのものが出てしまうので、いろいろ今さらな表現が散見されますがこのままアップさせていただきます。(ぶっちゃけコミケ準備中でしてあまり余裕がなく…!(^^;))というわけで、内容は原書しか見てないときに書いたものなのでご了承くださいませ。
それはさておき、上記のSFマガジンは""Exhalation"収録作のチラ見せ(笑)以外にインタビューや新刊未収録作の翻訳も載るようなので、先ほど注文してきました♪(^^)
それでは以下感想です。
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とてもとても遅くなりましたが、待ちに待ったチャンさんの新刊"Exhalation"、今年5月に発売されました。 ばんざい!\(^_^)/
"Stories of Your Life and Others"より後に発表済の作品が収録されたほか、初出が"Omphalos"と"Anxiety is the Dizziness of Freedom"の2作あります。うれしい♪
どうせなら感想もつけて……と思ううちに私事でどんどん遅くなりまして、こんな時期になってしまいました。以下は初公開2作のうち"Omphalos"の感想と、ほかの作品を含めた目次(+ご紹介時の過去記事リンク)です。("Anxiety..."は現在まだ読んでいます。先に邦訳が出ちゃうかもですね)
"Omphalos"感想
私たちが現在「科学的」としている説とは違う世界観の上に、「科学」が構築されている世界の物語。あくまで「科学的」であろうとする主人公は、女性の考古学者で敬虔な信仰を持っています。彼女の独白は「主よ (Lord,) 」で始まり、彼らが立脚する世界観を揺るがす遺物の存在に直面し、葛藤を告白する形でつづられます。
この世界観が分かっていくところがキモなので、(これから読まれる方の目に触れることを想定して)そこを詳しく書くことは控えます。ぜひ本編で味わってください。
物語は間違いなく人間の世界の物語ですが、シカゴ(Chicago)らしき地名が「シカゴゥ(Chicagow)」とかなっていて――辞書にはないし造語だと思います――私たちの世界との差が微妙なズレにとどまっているので、いわゆる平行世界とも解釈できます。抽象的なアナロジーとしてイメージが広がります。そのへんを読む側が広げていけるのも作品の醍醐味ですね。
冒頭のシーンでは、また「女性が男性の名前で書いてるんでは」と誤解しそうなくらいリアルな感情がさらっと描かれてました。(最初ご本人を知らずに『あなたの人生の物語』を読んだとき、やはり同じことを感じたんですよねー…)
シカゴゥは女が一人で旅するようなところじゃない、とか言われて、「私はモンゴリアも旅したし、シカゴゥがあそこよりひどいとは思わない」と言い返したあと、そんなヒステリックな反応をしたことについて神に赦しを乞うんです。(これは本心から反省しているというより、苛立ちの大きさを反語的に表現しているように見えます)…こういう体験や苛立ち、特に女性は共有・共感する方が多いと思います。自分もそうです。
感動的なのは、彼女が「新しい事実」に対峙する姿勢の変化。そして終盤出てくる独白から、奇妙なことに、彼女たちを私たちとは別の、ある種の「生命」と重ねてイメージしました。これも、これから読む方のイメージに影響を与えたくないので書くのは控えます。そうなると書けることがあまりないですね。(笑)でも感動的なのは確かです!
印象的な一節を、(ネタばれにならならい範囲で)拙訳で少しだけご紹介させていただきます。
――私は想像してみた。どんな気持ちだろう。完全な身体(かたち)を与えられて目覚め、特定の技術を持ちながら思い出す過去はなく、まるで記憶喪失者のように、見覚えのない世界で途方に暮れるのは。私には恐ろしく思える。私がこの数週間に体験したことより、ずっと恐ろしい。
チャン氏はよく、サイエンス・フィクションとファンタジーをきちんと区別するのですが、私にはむしろファンタジーの範疇にも見える世界観で、その意味では『七十二文字』や『地獄とは神の不在なり』と似ているかもしれません。
一番最後の独白がやはり感動的で(これぞ「テッド・チャン節」!)、独特の「開けていく」感じ、解放されていく感じがありました。その感覚は物語の中のものではなくて、読んでいる自分が感じるものです。自分が解放されるのです。解釈の変化によって世界が変わる瞬間を、読む側も違う形で共有します。
タイトルになっているomphalosの意味は、辞書で見ると「へそ」や「中心」。もとはギリシャのデルフォイ神殿にある「世界の中心の石」のことだそうです。そこを踏まえると、このタイトルは重層的な意味を持ちます。どう訳されるのか楽しみです。(いろいろ考えて楽しんでいるのですが、ニュアンスを余さず表現するのは難しそう!)
日本に住んでいて特定の宗教なり学問なりの信条など希薄な自分には、この「信念の基盤が揺らぐ恐ろしさ」は想像しにくいとも感じます。それなりに自分にもあるのでしょうが、それを守るために戦った経験もなく、特に意識することがありません。チャン氏の別の作品で言えば、『ゼロで割る』の主人公が、数学の無謬性を覆す事実を知ってしまったことから陥る絶望も同じです。自分には想像するしかありません。ただ、特定のそれを共有しなくとも、自分ものとして感情移入できるものがありました。いやはや、やはりファンの期待を裏切らないですね。毎度のことですがテッド・チャン健在なり。嬉しかったです❤ (^ ^)
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目次は以下の通り。今回初収録の作品以外は、以前書いた感想やご紹介などの記事へのリンクを添えました。
すでに邦題のあるものはカッコでつけています。
The Merchant and the Alchemist's Gate (『商人と錬金術師の門』)
SFマガジン テッド・チャン特集 感想 (2007/11/24)
Exhalation (『息吹』)
この圧巻を、ぜひ。/テッド・チャン『息吹』 (2009/11/25)
(SFマガジンへの邦訳掲載時のもの。日記に書いてしまったのでそちらの該当箇所へのリンクです)
SF大会展示ページにチャン氏よりのコメントを掲載(2010/9/2)
(作品をテーマにさせていただいた生け花展示写真と解説の再掲、展示用にチャン氏よりいただいたコメントなど)
What's Expected of Us (『予期される未来』)
SFマガジン テッド・チャン特集 感想 (2007/11/24)
BuzzFeed寄稿記事と対談ビデオ (2018/1/19)
(記事の内容にからめて、邦訳で読んでいたのを忘れ原文で読み直した感想を書いています(^^;))
The Lifecycle of Software Objects (『ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル』)
"The lifecycle of software objects"感想 (2010/12/12)
Dacey's Patent Automatic Nanny
ヴィクトリアンな機械の乳母 "Dacey's Patent Automatic Nanny" (2011/11/26)
The Truth of Fact, the Truth of Feeling
新作"The Truth of Fact, the Truth of Feeling" (2013/8/30) (リンクのみ)
The Great Silence
Omphalos
Anxiety Is the Dizziness of Freedom
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さて、この記事もいじりだしてからかなり経ってしまったのですが、そうこうしているうちに日本語版が予約受付中に!嬉しい!
息吹(amazon)
現在まだ書影はないようです。絵が入ったら上のリンクも反映されるかな…?[※こちらのブログでは表示されてないかもしれません]
今回は文庫でなく単行本なんですね。 どうやらomphalosはカタカナ処理になったようです。うーん、その手があったか……!(笑)
余談ですが、"Exhalation"の邦訳の「息吹」という言葉、個人的には先に原語で読んだときに得たイメージとは違うんです。これはSFマガジンで初出のときから感じてたんですけど、じゃあどうすればいいと思うのかというと思いつかなくて……難しいですねえ。翻訳者さんも悩まれたんだろうな。ダイレクトに「肺」から吐く「呼気」のイメージなんですけど、「呼気」ってのもイマイチですしねえ……。まあ末長く考えてスルメのように楽しむことにします。(笑)
…ともあれ、邦訳版も実物を見るのが楽しみ。答え合わせの前に原書の最後の一本を読み終えなくちゃ!です❤