魔法が科学に変わる時:AIで「蘇る」故人

いつも見ているニュース番組で、ちょっとした「SFが現実になる瞬間」を体験しました。 

AIで残す“人の思い”(キャッチ世界のトップニュース)

 

「AIで故人とのコミュニケート(に見えるもの)を可能にする」という話題で、恋人を亡くしたIT起業家の女性が、AIに生前の恋人の言動の記録を学習させ、彼とチャットができるアプリを開発したというもの。返してくるジョークのセンスまでそっくりだそうです。亡くなった恋人自身が、故人の記録をAIに落とし込むことには興味を持っていたとのことでした。

 

で、「状況設定」や「映像」が、ちょっと前に見たSFドラマシリーズ『ブラックミラー』の『ずっと側にいて』というエピソードにすっかり重なって見えたんです。

 

亡くなり「蘇る」恋人を演じるのはドーナル・グリーソン。
ネットフリックスで配信中。シーズン2第1話です。
ブラック・ミラー(Netflix)

 

 ドラマのほうも、恋人を突然亡くした若い女性が主人公。彼女は激しく落ち込み、友達に勧められて、上記にそっくりのアプリ――故人のデータを学習し、故人とチャットができるようにしてくれる――に、最初は拒否反応を示しつつも手を出します。ドラマの主人公はユーザーですから、開発の当事者になる現実のほうがドラマチックな位です。 

 

スマホからデータを移すところとか、チャット画面とかがあまりにそっくりなので、「現実の話をヒントにあのドラマを作ったんでは」と思うくらいでした。でもこのエピソードは2013年のもので、順番は逆。あるいは現実がドラマからヒントを得たのでしょうか。でもフィクションからの発想というつながりがなくとも、AIの応用として自然に出てくる流れだという気がします。昔、技術を飛躍的に進歩させるのは戦争でしたが、今はIT周辺の資本主義が充分それを推進してしまえると思いますし。

 

…ドラマのほうは、テキストによるチャットから電話で話せる音声へとエスカレートしていきます。こういう作品、たいていラストは怖かったり、皮肉な悲劇だったり、「ぞっとする」ものになりがちなんですが、このドラマのラストもちょっと怖いような感じではあります。でも「もしかしたらこういうことを、私たちは自然に受け止めていくようになるのかも」とも思えてしまうところが、逆に一番怖いかもしれません。もちろん違和感は覚えますが、その違和感は「今の」自分だから感じるものかもしれない。ある新しい技術が出てくると、たいていは拒否反応やネガティヴな可能性に注目するトレンドって起こるのがあたりまえ。でも書籍にも、電気にも、テレビにも、人間は順応してきた。となると……という感じが、どこかでするのです。

 

フィクションで情緒の対象という意味での「人間」の役割人工物に置き換わると、年をとらないとか、欠点がなさすぎるとか、たいていネガティヴな結末につながるものが用意されます。でも現実的なところを考えると、これが資本主義経済の中で利潤を生む消費行動として成立する限りは、ユーザーの要求(ニーズ)に応え続けるでしょう。つまり年をとるように設定したり、欠点を作ったりも可能になるでしょう。もしそこまでいったとき、私たちはそれを拒否するだろうか。受け入れて「今は想像がつかない生活」に順応してしまう可能性もあるんじゃなかろうか。今の自分たちがテレビや電話、あるいはビデオ(記録した故人を「再生」できる)に順応しているのと同じように。一方で、なにかの規制が生まれるとしたら、どういう線を私たちは引くんだろう? そんなことをイロイロ思いました。

 

 

関連おすすめリンクなど

こういうテーマは、以前からいろんな作品で扱われていると思います。その中でも自分がリアリティを持って受け止めたものに、内田美奈子先生のSF漫画『BOOM TOWN』の中のあるエピソードがあります。(未読の方のためにどれかは伏せておきますね)『BOOM TOWN』では、電脳空間に作られた仮想都市とその中のバグを退治するデバッガー、ユーザー、その中でだけ存在できる「人格」を持ったキャラクターたちが織りなすドラマが描かれています。とても20年も前の作品とは思えません。…内田先生は代表作の『赤々丸』連載時から大ファンなのですが、BOOM TOWNは今読んでこそリアルな気がします。

 

マンガ図書館Zで無料公開中なので、未読の方はぜひどうぞ。

BOOM TOWN 1

超をいくつ付けても足りないおすすめ作品です。(先生の作品は他も全部超おすすめなのですが!(^^))

 

"Black Mirror"自体は、これまた大好きなSF作家テッド・チャンさんが、インタビューでおすすめなテレビドラマとして挙げていたものでした。インタビューは別ブログで拙訳でご紹介しているので、ご興味のある方はどうぞ。

『メッセージ』: 原作者テッド・チャンが語る小説から映画へのプロセス(リンクと拙訳)

 

チャン氏のおすすめで"Black Mirror"に興味を持ったものの、実際に見たのは一時的にはまったドーナル・グリーソンがきっかけでした。IMDbのトリビアに、人間と人工物の恋愛で両方の立場を演じたことがある、と書かれていたのを読んで興味が湧いたミーハーです。(笑) 『エクス・マキナ』(こちらが「人造人間と恋に落ちる(?)人間」ですね)や『アバウト・タイム』ではちょっと気の弱そうな役をやってましたが、『スター・ウォーズ』の新しいシリーズではハックス将軍という悪役をやってますね。(この将軍役のときはなぜか目が大きく見える)『エクス・マキナ』で共演していたオスカー・アイザックもろともスター・ウォーズに出ていたのを知って、遅まきながら「へえ~☆」と思いました。(^^;)

 

…ついでなのもう一つおすすめを。あのドラマのエピソードを見て感じた「違和感」と「リアリティ」は、あれがどこまでも「資本主義的な消費行動」というところから来ていました。身近な人の死から立ち直れない人をターゲットに、露骨に「商売」していることへの違和感も。これは両義的なのですけれど……。…現実のほうのIT起業家さんは、開発したアプリ(データを取り込むものではなく、亡くなった恋人にカスタマイズされたもの)を公開したそうで、それがまったく知らない人からも好評を得ているとのことでした。すごくデリケートな領域だけど、やはり応用展開はすぐそこ、という気がします。

 

さっき、IT周辺の資本主義が戦争並みに技術の進歩を推進できそう、と書きました。そのへんに実感を持てたのは、やはりチャン氏が昨年、BuzzFeedに寄稿していた記事を読んだせいかもしれません。その後日本語版も公開されたのでリンクしておきます。「資本主義とテクノロジーの関係」をリアルに捉えさせてくれました。 

シリコンバレーが警告するAIの恐怖、その本質を「メッセージ」原作者が分析

 

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…SFの対象だったものが現実になっていく速度が、どんどん早くなって……言い換えると、近未来を扱ったSF作品の賞味期限がどんどん短くなっていきますね。昨今、ほんとによく感じます。思いついたもの、書いたものも、そのままではお蔵にするしかないものがどんどん増えていくなあ……と思いました。(^^;)