3月からほぼ週イチペースで連載してまいりました『交霊航路:僕と彼女とドイル文書は永遠に』、先週カーテンコール(?)のキャラクターたちの画像を掲載して、すべて公開完了となりました。連載ペースにつきあってくださった方も、まとめて読んでくださってる方もありがとうございます。もともと昔の同人誌で完結していた長いものを改稿・分割したので、末尾にクリフハンガーが用意できない回があったり、切れ目のタイミングで長さもまちまちだったりしました。なので、完結した今まとめて読んでいただくほうが物語に入りやすいかもしれません。少しでもお楽しみいただけていたら嬉しいです。
この作品は、メインの表現形態を漫画から小説に移行してから、オリジナル系で初めて書いた長い小説でした。もう10年ほど前になります。コミティアに分厚いコピー誌を持って行ったとき、「見本誌コーナーで冒頭読んだら面白そうだったから」と買いに来てくださった方がいらした思い出から、その後もずっと勇気を頂いています。その後ご感想を下さった方々にも、改めてお礼を申し上げます。
同人誌では、初見の方との「共通知識」になるものがないと、なかなか手に取っていただくことができません。パロディ・二次創作や、オリジナルでもジャンルやカテゴリー(「ハッピーエンド」などネタバレとも思えるものも含めて)を細かく提示できる作品が主流になっているのはそのためだと思います。この作品の前に『追憶のシャーロック・ホームズ』をなんとか書き上げていたので、当時長い小説を書くこと自体には不安はありませんでした。そこから一歩オリジナル方向に踏み出したい、という思いと、しかしまったくのオリジナルではまずお手に取っていただけないだろう、という予想から、コナン・ドイルやホームズなども一部で取り込みながら、物語としてはオリジナルという物語を作りました。
内容はご欄の通りで、「オリジナル色の強いバスティーシュの一種」とか、「オマージュ」という表現は一一部当てはまると思いますが、パロディや二次創作ではなく、パクリでもありません。でも決して「人寄せパンダ」的にドイル先生等を担ぎ出したわけではなく、出ているいっさいの既成キャラクター・歴史上の人物を「聞いたことはある程度」という方に楽しんでいただけるように、という意識で書きました。いわば出ている既成イメージは「有名人」「有名キャラクターとその作者」「女性科学者」などに一般化できる記号で、同人誌としてはそこが「初見の方との共通知識」の部分になりますが、オリジナル作品としては、それぞれを熟知している方だけを想定した書き方はしなかったつもりです。(とはいえ、ここはわかりにくいとか、逆に説明がくどい、とお感じになった方がおられるかもしれません。そういったご感想もぜひお聞かせください!)
しかしこの「初見の方との共通知識」部分は諸刃の刃で、ある固有名詞を知らない方がそれをご覧になったとき、「自分にはわからない内容であるはずだ」という印象をお持ちになる可能性もあるわけです。コーヒーカップは誰でも知っているけど、コナン・ドイルは特定の人しか知らない、というような。それでも、こういうアプローチは商業作品でも昨今ますます増えているので、今のほうが抵抗は少ないと思います。読書は作品と読み手の間のきわめてパーソナルな交流であり、他の読み手との間で予備知識を競うものではまったくないと思います。『高慢と偏見とゾンビ』を読んでから『高慢と偏見』に興味が出るとか、ドラマの『SHERLOCK』を見て原作を初めて読む、というような楽しみ方はまったく正常だと思うのです。(ちなみに『高慢と偏見』は映画しか見ていませんし、『…ゾンビ』は未読です(笑))
掲載を始めたときのブログで、大きなイメージソースである『十二夜』と『すべての道はローマへ』をご紹介しましたが、その後投稿のための改稿時や、今回ウェブに上げるにあたっても手をいれたので、初版に比べるとディテールはより多く、より細かくなっていると思います。ウェブ連載の場合、以前出てきたものの再登場でも時間があいているので、そのへんの言葉を足す作業もしました。公開する形態によって「読みやすさ」が変わる、というのもいろいろ勉強になりました。まだまだそのへんも勉強中ですので、なにかお気づきの点などありましたら、ぜひこそっとお聞かせ下さいませ。
…時代や性別や実在か架空か、といった区別を超えたつながりを楽しく描けたらと思って書いた物語でした。量子に絡めたイメージは初版執筆当時に調べたいろんなものから影響を受けていますが、特定の仮説を下敷きにしたものではありません。でも現在NHKのEテレでやっているドキュメンタリーシリーズ、『モーガン・フリーマン 時空を超えて』の死後の世界を扱った回でも量子と絡めた説は出てきたので、そう荒唐無稽なイメージではないかな? と思っています。
(※コナン・ドイルは実人生で心霊主義を研究していましたが、この作品で提示している「死後の世界観」は筆者が自由にイメージしたもので、ドイルが研究していた「心霊主義」でのイメージとは異なります。パスティーシュ的な方向では「史実」を取り込むことが期待されると思うので、ここはご了承下さい。いわゆるアカシック・レコード的なものともちょっと違い、情報は蓄積しないイメージを作りました)
今後kindleなどにまとめるかどうかは今のところ未定なのですが、しばらくこのまま公開しておこうと思います。SF的な側面からでも、パスティーシュ的な側面からでも、のんびりと楽しんでいただけたら幸いです。
本編はこちらからどうぞ。
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コミケに落ちたので、現在は秋に向けてイアン・ワージングシリーズの新作の準備をしています。本当はもう初稿が完成しているはずの時期なのですが、常の通り予定通りには進んでいません。(^^;)10月のJ.GARDENに間に合わなかったら、次点でコミケ(抽選で当たればですが)での発行を考えているので、気を緩めずに進めようと思います。完成すれば、その後kindle化もするつもりです。順番はどちらが先になるかわかりませんが……。
今は材料が増えているところで、一方で事前に用意していた資料の多くは使わないことになったり、まだ地殻変動レベルで物語が動いています。主人公は自然に動くようになってくれているので、できるだけその邪魔をせず、自然に読める形にしたいと思っています。完成した暁には、既刊含めてどうぞよろしくお願いします。
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