火星の人のDIY/『オデッセイ』アンディ・ウィアーとマット・デイモン

 映画『オデッセイ』周辺についていろいろ書きます。(パンフは買ってないので、そちらと重複してることをさも新しげに書いてるとか(^^;)、あるいはそちらですでに説明されてる疑問とか呈してましたらご容赦下さい)

  

初日に見に行きましてすごく面白かったんですが、ここは創作・作品関連の話題に絞るブログなので、ミーハーネタ(ちょい役で出ているジョナサン・アリスさん等)は個人ブログのほうできゃーきゃー騒ぐとして(笑)、こちらで書きたいのは…やはり原作の『火星の人』が、もともとはkindleで出された個人出版本だというところです。映画公開前に英語圏のTwitterで流れてきまして、へえ、と思ってご本人のサイトを見に行きました。最初に『火星の人』の日本での紹介を目にしたときには知らなかったので、ちょっと驚きました。

  

作者のアンディ・ウィアーさんはもともと作家志望だったそうで、『火星の人』は自分のサイトで少しずつ公開していたものを読者さんのリクエストでkindleでまとめて出し、ダウンロード数が多かったため目立って、それを出版社(しかもSF系ではない所)が紙で出し、それが目を引いて映画化という流れだそうです。kindleの部分だけは親近感が湧くものの、15歳で国の組織に雇われたプログラマーさん、というちょっとした天才らしいので、お若いけど雲の上の人ですね(笑)。もともと売り込もうとしてではなく、楽しみながらやっていたというのもいいなーと思います。

 

(「出版社・配給会社によって」、マーケティング戦略として受けのよさそうな「純真DIY物語」が強調・あるいは過度に演出されている可能性も考えないわけではありませんが、そのへんは今は勘繰らないことにします。たとえそうだとしても自分には舞台裏など知りようがないですから。素直に素直に(笑))

 

お話をすっ飛ばしてしまいましたが、平たく言うと火星に一人取り残された主人公マーク・ワトニーが創意工夫でサバイバルするお話…なんですが、大きな魅力はワトニーのキャラクターとリアルなディテールでしょう。他のトーンもリアルなのにユーモラスでサバサバしてて、気持ちよかったです(笑)。たとえば、自分が映画の中ですごくおもしろかったシーンの一つは、ワトニーを帰還させる計画を思いつく若い天才君が、NASAの長官の名前を知らない、という一瞬笑えたところでした。原作にあるシーンかどうかは知りませんが、作者さんのプロフィールを読むと、そういう気持ちのいい反骨精神(むしろ権威筋を気にも止めていない感じ)というか、カジュアルな天才さんたちの「空気」はじかに吸ってる方なんだろうなー、なんて印象を受けました。

 

ワトニーは映画のなかですごく実務的・前向きな姿勢を維持していて、「幸い…」という台詞が何度か出てきます。これ、頭のなかでつぶやいてみるとすごく実感できるんですけど、自然に「この状況のなかで少なくとも使える部分」を脳内検索する効果がありますね。一見お門違いのことでも、そこから問題への別のアプローチが見えてきたりするんですよ。映画見てから勝手に「ワトニズム」と称して意識してやってます。すごく低レベルですけど。「…幸い、私は日本語ペラペラ」とか、「…幸い、今日は雨降ってない」とか。(笑)

 

ワトニーは自分の考えをカメラに向かってしゃべったり、雑にメモで書き出したり、とにかく「頭から出す」んですよね。これもすごく見習いたいです。考えを書く・しゃべるという「行動」に変えて、かつ自分の目で見られるように――客観視できるように――することで、頭のなかで転がしてるとネガティブになりそうな状況でも、「今ここでできること」に集中できる気がします。

 

よく「コップに半分水が入ってるときに、半分あると見るか、半分しかないと見るか」のたとえが使われますが、その「ある」の部分に自然に集中するモードになれる。魔法の言葉だと思います。「幸い」って。原作通りなのかどうかは知りませんが、読んでみたいと思っています。(遅読なうえ読みたい物たまってるのでいつになるかわからないですけど~)

 

一方、主演したマット・デイモン――こちらもよく知られていますが、少なくとも自分がこの方の名前を知ったきっかけは、ベン・アフレックとの共同脚本・主演の『グッド・ウィル・ハンティング』でした。ファンではないのになぜか日本で出た対訳脚本を買ってたので、発掘写真です。(…というか、わりとすぐ出るところにほこりだらけで放置されてたのでキレイにしました!(^^;))

 

 

印象に残ってるのは、彼らがこの脚本を売り込むときに「自分たち主演で」という条件を決して譲らなかった、というエピソード。脚本だけなら買う、という条件を蹴って別のところを探すことを繰り返したと、当時映画雑誌で読んだ気がします。それが報われた結果がこの作品なわけで、正直作品自体にはそれほど惹かれなかったんですが、そのバックストーリーに惹かれました。(大好きなSF作家のテッド・チャンさんも別の角度でそうなんですけど、いい意味での自主独立精神というか、長いものに巻かれない、だけどやたら角出してるわけじゃない、というクリエイターさんたちには惹かれます)それと今回の『火星の人』がもともとは自力で発表した作品であること、それらが頭の中でブレンドして、とてもすがすがしい、応援したい感覚を覚えております。

 

マット・デイモンとベン・アフレックがどうやって脚本を書いていたか、という話も当時すごく印象的でした。彼らが離れてるときは書いたのをファックスで送って、受け取ったほうがまた書いて送って…というのを繰り返してたらしいんですね。「自分たちを楽しませるために」やってた、というのもいいなーと思います。もともとは飛行機が苦手なため、長距離を車で移動することが多くて、そのとき運転担当のアフレックが眠くならないように、退屈しのぎにストーリーをしゃべるのが習慣だったそうです。そのなかでいいアイデアが出るとメモしておく、なんてことをしていたんだとか。

 

これだけプライベートで「いつも一緒」だと読んだわりに、なぜかデイモンとアフレックのお二人には腐った萌えは感じないんですが(でも共演作の『ドグマ』はわりと好き(笑))、思えばこの作品はそっち路線の大御所、ガス・ヴァン・サントが監督でしたね。…でもマット・デイモンという人は、撮り方によっちゃ可愛いけどどこか「絵にならない」ところがいい意味で個性で、それがこれほどのブロマンス要素がありながら萌えない理由かしらん、とか勝手に自己分析しております。(でもぷちマッチョなのでホンモノさんにはけっこうモテそうな気がする。趣味の問題と言えばそれまでですが、『リプリー』までやった人なのになぜ萌えないんだ私???(笑)

 

マット・デイモンご本人もハーバード大卒で優秀な方らしいのですが、それを取り沙汰されたときに、「ジャック・レモンだってハーバード出てるけど誰もそんなこと気にしない」とか言ってた(という記事を読んだ)気がします。ジャック・レモンは大好きなので言葉がストンと入ってきました。なんでそんな言い方されてたのか記憶が無いんですが、俳優さんは高学歴で逆差別されることがあるんでしょうか? 別世界の話ですがひがみたくなる気持ちはわかる。(笑)難しいもんですね。

  

『グッド・ウィル・ハンティング』は、当時の同僚が映画好きだったので、「マット・デイモンの微妙なルックスについて」とか、「ベン・アフレックのほうがハンサムだよねえ」とか、どーでもいい部分でやいやい言ってた記憶しかありません。(笑)でも今回ちょっと見直したくなってます。そしてワトニズムは大いに見習いたいです。ほんとに。